2025年現在、人工知能(AI)の進化は、世界中の労働市場に大きな変革をもたらし始めています。オーストラリア政府は、AIを社会インフラや産業の中核に据える戦略を進めており、国家AI戦略の一環として、2021年には「AI Action Plan」を発表し、企業・教育機関・行政によるAI導入の推進を明確に打ち出しました(参考:Department of Industry, Science and Resources)。AI導入の目的が「業務効率化」から「新規価値の創出」へとシフトしています。それに伴い、AIスキルを持つ人材への需要が特に2021年以降急増しており、PwC Australiaのレポートによると、AI関連の求人は2012年の約2,000件から2024年には約23,000件へと増加し、AIスキルを持つ職種では平均で56%の給与プレミアムがあると報告されています 。
特に、メルボルン、シドニー、ブリスベン、パースなどの都市では、ビジネスアナリティクス、医療診断、AIトレーニングなどの職種が高い需要を示しています 。
この記事では、オーストラリアのAIスキルの需要を探っていきます。
日本ではAI導入が大企業を中心に進められており、業務効率化や人手不足への対応が主な目的となっています。そのため、AIエンジニアやデータサイエンティストの需要は高まっていますが、導入スピードは比較的緩やかです。
オーストラリアでは、2012年にはわずか2,000件ほどだったAI関連スキルを求める求人が、2021年には23,000件に急増しました。しかしその後、2021〜2024年はほぼ横ばいに推移しており、成長のペースが鈍化しています。
この背景には、AIスキルが「特別なもの」ではなく、もはや多くの業務で前提スキルとして求められる「共通スキル」になりつつある現実があります。特にホワイトカラーの職種において業務の自動化が進んでおり、一部の業務はすでにAIに置き換えられていることを背景に鈍化している可能性もあります。また、オーストラリア企業がAI人材を求めて海外の労働市場に目を向けるようになっていることも考えられます。実際にオーストラリアでは、行政業務やカスタマーサービス、教育、医療などの分野でAIの導入が進み、従来の業務が再編成されて始めています。
「AIとの関係が最も高い業界では、従業員一人当たりの収益成長率が、最も低い業界(9%)と比較して3倍(27%)高くなりました。」「過去12ヶ月間で、企業におけるAI導入が生産性向上に実際に貢献したという証拠がますます増えてきています。そして、あらゆる業界で、その証拠が次々と現れ続けています。」
一方で上記も報告されており、AIの重要性はさまざまな業界で増していくと考えられます。AIを活用した新たな職種もできる可能性があり、AIプロダクトマネージャー、AI倫理スペシャリストなど、AIと他分野を掛け合わせた職種、それを監視できるマネジャー職が増えるかもしれません。
補足:
オーストラリアではAI関連の求人だけではなく、すべての求人において過去10年間「ヘルス・社会福祉関連」「プロフェッショナル」の2つのセクターが多くの割合を占めていました。これは現在でも変わりませんが、両セクターとも求人広告全体に占める割合は近年減少傾向にあり、プロフェッショナル職は2022年から2%ほど求人が減少しています。つまり、AIによる自動化に伴い減少している可能性もあります。一方で、2019〜2024年にかけて最も高い求人伸び率だったのは、一見AIに関係が薄そうな農業・観光業界でした。AIによる自動化や補完により、別の形で仕事が生み出されている可能性があります。
※AIスキルとは、人工知能(AI)に関連する知識や技術、そしてそれを活用する能力の総称とします。
過去(2012〜2020)
現在(2021〜2024)
未来に向けた展望(2025以降)
※Augmentable jobs:人間のスキルや判断力をAIが支援する仕事のこと。(例:AIで患者データを分析しつつ、最終判断は医師が行う・販売戦略をAIが補完する営業職など)
※Automatable jobs:AIで自動化が可能な仕事。(例:データ入力、定型レポート作成、予約対応など)
特筆すべきは、AI関連職で学歴要件が低下していることです。AIに影響される可能性が高い職種では、学士号などの学位を求める割合が、2016年の74%から2023年には69%まで減少しました。逆に、AIと関係が薄い職種では24%と変化なし。したがって、AI時代においては「どこで学んだか」よりも、「何ができるか」「どんなツールを使えるか」が重視され、より経験重視となることが予想されます。
AI技術が現場に導入されることで、従来の職務内容が大きく変化しています。つまり、AIが深く関わる仕事ほど、求められるスキルの変化が激しく、学び直し(リスキリング)やAI応用力が必須になっているとも言えます。
| 観点 | オーストラリア | 日本 |
|---|---|---|
| AI導入のスピード感 | 民間・政府ともに迅速(スタートアップ〜大企業までAI導入が進む) | 大企業中心で導入スピードは比較的遅い(PoC止まりも多い) |
| AIを使う目的 | 新たな価値創出・事業成長(例:生成AI活用の新規事業、顧客体験の革新) | 業務効率化・人手不足対応(例:チャットボット、RPA、自動応答) |
| 求められる人材像 | 実装経験・プロジェクト設計・ビジネス応用に強い「即戦力タイプ」 | 内製開発よりもベンダー依存傾向が強く、PM・橋渡し役が評価されやすい |
| AI人材の受け皿業界 | テック、金融、医療、教育、小売、行政、スタートアップ全般 | 製造業、大手IT、金融、行政が中心。多くは大企業内での活用に限定 |
| 主な求人職種 | MLエンジニア/データサイエンティスト/プロダクトマネージャー/AIエシックス/AI UXデザイナー | データアナリスト/AIコンサル/RPAエンジニア/SE・PM(AI周辺) |
| スキル重視の度合い | 高い。実装スキル(Python、LLM、MLOpsなど)+業務設計力が評価される | 導入支援・ベンダー管理など「間接的な関与」でも評価される傾向がある |
| 英語力の必要性 | 必須。技術資料も会話も全て英語が基本 | 基本不要(ただし、英語力があれば年収やキャリアの幅が広がる) |
| 働き方 | 転職前提・フリーランス歓迎・リモートや副業にも寛容 | 正社員中心・転職は慎重に扱われる文化。副業も制限されがち |
| 年収の違い(平均) | エンジニア:約AUD$120,000〜150,000(約1100〜1400万円) | 同職種:約600〜800万円(地域差あり) |
日本においてもAIスキルの需要は高まっていますが、オーストラリアと比較すると、以下のような違いがあります:
AIスキルと一口に言ってもさまざまありますが、エンジニアなどの技術関連で使用されていた専門性の高いものから、全職種に共通するものとして変化しています。記事で触れたように、実際にホワイトカラーの一部の求人が鈍化しており、すでに置き換えが進んでいると思われる職種もあります。AI時代は、単なる技術職ではなく「問題を見つけ、技術で解決できる人材」が求められる時代です。
今こそ、AIスキルを自分のキャリアの”共働者”として育て、AIとともに働ける人材、判断力、スキル更新の速さなどが求められているのかもしれません。
【参考資料】
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